プログラミングの考え方の変化（補足資料）

コンピュータの変化

1940年代に作られた草創期のコンピュータ（最初のコンピュータがどれだったのか諸説あるが）は、規模の大きな設備（大きな部屋まるごと、というイメージ）だった。
- たとえば ENIAC の写真などからそれが伺える。
それ以来、コンピュータ（のCPU)は、以下の３つの方向で進化を続けてきた。
- 高速化：主にクロック周波数の向上（=個々の処理を行うための時間の短縮）による
- 小型化
- 低価格化
コンピュータの相変化
そういった変化の結果、コンピュータの使われ方にも変化が起きてきた。
- 比較的最近まで、コンピュータは高価な装置だったため、複数の利用者が共同利用を行う形態が一般的だった（図左）。
- その後、一人一台の（パーソナルな）時代になった。
- 最近は一人のユーザが複数のコンピュータを並行して使う形になってきている（図右）。
現在のコンピュータは2GHz前後のクロック周波数で動作する。
- 諸君のWindows PCで、「コンピュータ」の（右クリックで）プロパティを表示させると、その仕様を確認できるだろう。
- 2GHzは一秒間に約20億回を意味する。１クロックの時間は1/20億秒ということになる。
  
  光の速度（3億m/秒）をこの時間を掛け算すると、約15cm。
  
  1クロックの間に電気信号が伝達可能な距離の理論的上限は貴方のPCの横幅の半分ぐらいの長さということになる。
- つまり今後の技術的進歩によってこの速度を向上させる余地は（光速の壁による理論的限界によって）残されていないことになる。
すると、今後のコンピュータの性能向上は、マルチコアの方向に向かうしかない。
- 貴方のPCに内蔵されたCPUチップが Core2 或いは Core i3 などの「core」を含む名前のものだとすると、貴方のPCはマルチコアのコンピュータである。つまり、すでにマルチコア化の動きは貴方の手元に届いている（まだ2～4コア程度だと推察はされるが）。
動作モデルの変化
コンピュータの構成の変化は、ソフトウェアの動作の変化をもたらすことになるだろう。
- 複数の情報処理（ジョブ、タスク、プロセスなどと呼ぶ）を１つのCPU（コア）が順々（または時分割で）に処理していく、という動作モデル（図左上）を前提に、ソフトウェアは逐次処理の考え方で作られてきていた。
- 今後のコンピュータは、複数のCPU(コア）が同時に動作して１つの処理を行う形に変化していくだろう。
- これからのソフトウェアは並行動作、並列動作を前提に作られていくことになる。
プログラミング言語のあり方や、プログラミングの考え方も、それにつれて変化していくであろうことは念頭に置いておこう。
- その変化を要約するとすれば、　「個々のデータを順々に１つずつ処理する」のではなく、「データの集合体」を（なるべく）一括で処理する」という考え方/書き方になる。

ソフトウェア技術の変化

プログラミング今昔

上記のような背景のもと、その昔は、乏しいCPU資源を使って、できるだけ高速に動作するプログラムを作る、という技術は、プログラミングにおける花形の技術だった。
- そういう現場では、いわば工芸的な（右図）が行われていた。
- 技巧をこらして工芸的な作品（ソフトウェア）は、性能的な魅力はあるにせよ、
  書いた人にしか理解できないという難点があった。
- つまり、メンテナンスの問題。
ソフトウェアは、読む人が理解しやすいこと、現在ではこれが重要だとされている。
- 読む人は、未来の自分かも知れないし、他の人（あとを引き継いで使う人）かも知れない。
既存の資産（たとえばソフトウェア部品）を最大限に活用して、新しく作る部分を少なめにすること、これも重要なポイントとなる。
諸君は、この授業でプログラミングを経験した際に、細かい一字一句の間違いでプログラムが動かない、といったことを何度か経験したことと思う。
- いわばプログラミングは、「局所的」な陥弊との戦いであるという側面がある。
- が、その局所的な問題は、エディタやIDEによる支援の発達で、かなり改善されてきている。
- Kojoでは（キー操作は違うがREPLでも）、Ctrl+Space で、その文脈にあって単語の候補が提示されるという機能があり、
  （それを使いこなした人は）局所的なトラブルとは無縁でプログラミングが楽しめた筈である。
局所を支援する技術は発達したが、プログラムの大きな流れを考えたり設計したりすることは、
（AIの出現で将来的に様相が変わるかも知れないものの）人間の頭脳の力の見せ所である。
- これがプログラミングを学ぶ人のめざすべき方向、ということになるだろう。