カリフォルニア便り・番外編

サンフランシスコ&シリコンバレーの
リハビリテーション工学関連研究機関訪問(2)


スミス・ケトレウェル 眼 研究所
リハビリテーション工学研究センター
Smith-Kettlewell Eye Research Institute
Rehabilitation Engineering Research Center
for Blindness and Low Vision


  サンフランシスコ市内、ダウンタウンにあるSmith-Kettlewell Eye Research Instituteにあるリハビリテーション工学研究センター(RERC : Rehabilitation Engineering Research Center)を、10月中旬に訪問する機会を得ることができました。スタンフォード大学から車で約1時間半、サンフランシスコのダウンタウンは平坦で広いシリコンバレーとはまったく対照的でした。一方通行の道路や、駐車するのが危険に思われるような急坂にもぎっしりと路上駐車する風景が広がっています。路面電車の線路が交差する坂道を通りすぎ、観光ガイドにも載っているフィルモア・ストリートの隣のウェブスター・ストリートにそびえるパシフィック医療センターの隣に、こじんまりとしたSmith-Kettlewell Eye Research Instituteはありました。

  ダウンタウンらしく縦に長い(高い)ビルの1階の受け付けで、エンジニアのWilliam A. Gerrey氏(Bill)に面会の旨を告げ、エレベータで4階に。エレベータを降りると、そこに白杖を持ったBillがにこやかに出迎えてくれました。まずは、Billのオフィスに案内されたのですが、そこは自分の部屋と同じように電子回路の製作ツールやら計測機器、作りかけの回路基板などが転がるエレクトロニクス・エンジニアの部屋です。全盲であっても電子回路の設計はもとより、半田付けまでこなしてしまうスーパーエンジニアです。もちん、事前の訪問の依頼など連絡調整は全て電子メールにて行いました。

William Gerrey

  スタッフはRERCディレクターのJohn Brabyn博士以下、30名弱という規模のリハビリテーション工学研究センターです。しかもスタッフの半数以上がPh.DやM.D.で、視覚障害者の新しいリハビリテーション技術や方法の開発に焦点を当てながら、就労/日常生活/コミュニケーション/方向や移動などの問題に対しても幅広く技術支援を行っています。また、世界中からも研究者が訪れており、日本からも千葉大学医学部眼科の島田先生、東海大学工学部電気工学科の曲谷(まがたに)先生が滞在されていました。驚いたことに曲谷先生は学生時代、神奈川リハセンター・研究研修所の山田氏の下で論文を書いていたという早稲田OBで、リハセンターの事は良くご存じでした。世間は狭いですね。

  スタンフォード大学や前回訪問したVA RR&Dセンターよりも、より親近感を覚えたのは、やはり個人などへの技術支援という、より具体的な問題解決を実践しながら、それを踏まえた高度な研究という両輪で研究開発を行っているところが、我が職場(神奈川リハセンター・リハ工学研究室)と同じという事でしょうか。それと、とても気さくなBillとその仲間達の人柄なのでしょうね。

  最近の話題はTalking Signs, Discriptive Video Services, Access to Visual Displays, Access to Informationなどのようです。Compendium of Technology / Developed by the Smith-Kettlewell RERCという1冊の情報誌には、音でフィードバックする水準器や、音で波形を表示するオシロ・スコープ、触覚で読み取れるマイクロメータなど、ここで開発された様々なデバイスが写真と利用者の声とともに解説されています。これはすごい。

  John Brabyn博士からは、パソコンに装着する安価なデジタルカメラを用いて、デジタル表示の時計を音声読み上げするシステムを、Bill Crandall博士からはTalking Signsについて、島田先生にはディスプレイ画面を蜂の巣状にこまかく分割して、それぞれを個別の規則的な周期で点滅させ、脳波などからどこまでが見えているのか?という装置や、その原理を用いたバーチャルキーボード(どこを見ているかが推定できる)を紹介して頂きました。

  朝、子供達を小学校に送ってからサンフランシスコに来たため、子供達の下校時刻までには学校まで戻らねばならなかったという事情があり、Billに昼食に誘われ、行きたかったのではあるが涙を飲んでお断りをし、後ろ髪をひかれながら、晴れた日のサンフランシスコを後に。



ビル・ゲリー氏  Mr. William Gelley



ビルの机  Bill's Desk



音で波形がわかるオシロスコープ



私も愛用している音声読み上げ機能付きデジタルマルチメータ



音で水平かどうかがわかる水準器



点字などの表示があるため、読み取れるマイクロメータ



パーツボックスの点字インデックス



同僚のトム:全盲のプログラマー



視覚刺激反射のバーチャルキーボード(パネル)を説明する島田氏


Written by Eiichi Ito ( Visiting Scholar )
Stanford University